作曲家・五十嵐真理さんへのインタビュー 第二週

2009年3月12日 in インタビュー,

ノタの森の原動力の一つには、経験を後世に伝えていくことは先人の経験を享受している者の責務という考えがあります。その一つとして、特にこれから音楽を仕事にしようと考えている人たちへ向けて、音楽制作の現場で働くプロフェッショナルへのインタビューの短期連載を行っています。今回は経験豊かな作曲家である五十嵐真理さんに協力をお願いし、彼に4つの質問を投げかけその回答をまとめました。毎週1問ずつ掲載しています。現場で働いている人の生の声を楽しんでください!

五十嵐真理五十嵐 真理 いがらし まこと
作曲家
{略歴}

1965年(東京オリンピックの翌年)北海道生まれ。高校卒業後、青山レコーディングスクールにて作編曲を専攻。小田裕一郎、尾関裕司、岡野智光、桜井優典らに師事。音楽関係の仕事を探すことを全くせずに地元で家業の運送屋を手伝いつつアマチュアバンド活動に精を出す。バンド仲間が地元の音楽制作会社に就職し、そのコネで同社に潜り込む(去年末に同社を退社)。長年にわたりテレビ・ラジオのCM音楽、舞台音楽、ダンスチームの音楽、ゲーム音楽など凄まじい数の作編曲をこなし、現在に至る。

ホームページ:音楽制作 五十嵐真理のホヲムペエジ ブログ:五十嵐真理のBootRock"

{作品}

CM音楽(のぼりべつクマ牧場、日専連札幌、ぎょれん/ホタテ、全自動パワー融雪機モンスター、アップル車検など)
ゲーム音楽(天地無用 魅御理温泉湯けむりの旅 [SS]、カルドセプトSAGA [XBOX360]、ファミリートレーナー [Wii]、江戸川乱歩の怪人二十面相DS [Nintendo DS]など)
その他多数。

質問2.五十嵐さんが感じる仕事ならではの楽しみとは?

僕はバンド活動もしています。「自分のオリジナル曲を演奏して一発大ヒットを出して、ウハウハな生活をしよう!」という野望を持ったバンドではなくて、「好きな音楽を、その『好きだ』という思いを共有出来る仲間と楽しく演奏する」......ようするに趣味のバンド活動なのですが、

メンバーのほとんどがアラフォーだったりすると、
10~20代の頃のような熱血な活動は期待出来ません。
みんなのスケジュールをおさえて、練習日を決めるだけでも一苦労です。
全員のモチベーションが常に一定でもない。
「家庭」のプライオリティがググッと上がってくるし、
仕事が忙しくて、個人練習をしてこれないメンバーもいる。追求出来る限度は、どうしても プロ には敵わない。

そんな状況ではあってもメンバー各自が「出来る限りの事をやって迎えたライヴ」の楽しさは普通に暮らしていては得られないものです。お客さんが喜んでくれて、自分たちの努力が報われる。それをわかちあう仲間がいる。これがあるからバンドはやめられない。

今

回のテーマは「仕事ならではの楽しみ」ですが、これを伝えるには「仕事ではない方の楽しみ」を知ってもらい、自分が考える プロ とは何かという話から入ったほうが分かりやすいと思い、こんなプロローグにしました。「暗さ」を識ってはじめて、本当の意味での「明るさ」を識るし、「隣の芝生は青い」と感じるのは、「自分の家」と「隣の家」が存在するからです(この「比較する事によってアイディアの正しさを証明する」と言う発想は、仕事を進める上でとても大事だと思います)。

僕が考える「プロ」とは「何らかの資格を持っている」とか「収入がある」ではありません。

「何が優先されるか?」を

「識っているかどうか?実践できるかどうか?」

ということです。

「同じ方向に向かって各人が努力をする」
という意味ではバンドと同じ。
だけど、動機や責任の違いがあり、
そこからくる姿勢や行動が全然違います。

仕事は「結果に責任」を持たなければなりません。

単なる「好き嫌い」以上の意見を持って、
「客観を鑑みた上での主観」をもってして
「相手に理解させる」事が必要なのです。

「プロ」は大雑把に分けると
2ツに分類されると考えています。
「自分が作りたいものを心の赴くままに作る」
ような芸術家タイプ
と、
「オーダーに応えつつ、自分の色を上手に配合する」
職人タイプ

前者が「自分に正直である事」を優先するのに対して、
後者は「他者の期待に応える事」を優先する
という非常に大きな違いがあり、
二つの要素の混ざり具合/比率は人それぞれですが、
大抵の「アーティスト」はそのどちらも持っています。

前者の割合が多い人の事を、世の中は「天才」と呼ぶ傾向にある気もします。僕は圧倒的に後者。よく言えば「人に必要とされてこそ力を発揮出来るタイプ」であり、悪く言えば「自分一人では何も出来ないタイプ」です。だからこそ、複数の人にもまれるような仕事は「得意科目」です(逆に、物凄く出来の良いオリジナル曲を作る人なんかは、意外なほど「注文にあわせた曲」をつくるのが苦手だったりするものです)。

自分の「主戦場」であるCM音楽にしてもゲーム音楽にしても、メーカー→(代理店)→制作会社→音楽制作者と言うような複数の立場の人たちによる 共同作業 です。

のぼりべつクマ牧場

「熊がたくさんいる施設のCM」を例にとっていえば、カラオケだけが出来た時点では「普通の出来」の曲だったのです。地元FM曲のDJの人に素晴らしいラップを入れてもらい、エンジニアに適切な箇所に「あ~」「いえぁ」等の声を配置してもらい、何より監督が物凄くインパクトのある映像を創ったが故、ローカルCMなのに、全国放送の番組で取り上げられたりする作品になりました。


自分では絶対に歌えないような歌、弾けないような楽器......これを「出来る人」に来てもらって「やってもらう」。自分の力が10だとしたら、他の人の力を借りて100にグレードアップする。上手な人と仕事をすると 自分の想像以上の仕上がり になる事が多い。一人だけで仕事が完成する事はありません。

アイディアの大元がどの部署から出てくるかはその都度違いますが、社内での厳しいディレクションを経て、制作会社、代理店の厳しいチェックを経て、クライアントのOKをもらうまでには、各段階でのアイディアの精査があって、たくさんの人の耳を通過して、たくさんの修正をして、「完成版」が出来上がります。

各部署で意見がぶつかる場合も頻繁にありますし、それが自分に物凄いダメージを与える事もあります。自分の考えや理解が浅く、他部署の要求に応えられない時もあります。聴いた事も無いようなアーティストの曲を聴かされて「こんな感じ(の曲を作れ)」と言われる場合もあります。これら全てが新たな勉強になります。

今まで作った事の無いジャンルの曲を作れ、と言われれば
一生懸命勉強して「それらしく聞こえる」曲を作ります。
仕事である以上

出来ませんでした

されません。

厳しい事です。でも、厳しい環境だからこそ自分の能力が上がるのです。

何かを身につける度に、何かの壁を越える度に「やったぜ~~~~」と実感出来る。これが最高に楽しい。プロ野球の選手がホームランを打ったり、完封をしたり、そんなハッキリした「成功」は無いけれど感じられる達成感はきっと同等なんじゃないかな。

責任ある共同制作の中でこその達成感と成長と、

自分の想像を超えるものが出来上がる面白さ。

これこそが「仕事ならではの楽しみ」なのです。

次はどんな作品を作る事が出来るんだろう、と思うとワクワクしてくるじゃあないですか!来週はどんなインタビューになるんだろう?

第二週目のインタビューはこれで終わりです。来週は、 『質問3.五十嵐さんが思う日本の音楽業界の好きな面と嫌いな面は?』を掲載します。お楽しみに!

インタビュー企画担当/西尾康成

本人写真5枚 (c) 五十嵐真理
第一週.五十嵐さんなりの仕事での音楽制作のこだわりや心がけは?
第二週.五十嵐さんが感じる仕事ならではの楽しみとは?
第三週.五十嵐さんが思う日本の音楽業界の好きな面と嫌いな面は?
第四週.五十嵐さんにとって音楽とは?
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